*第1回*  (H23.11.24 UP) 研究医養成情報コーナートップページへ戻る
今回は東京大学での取り組みについてご紹介します。

東京大学における研究医養成の取り組み       
(文責:東京大学大学院医学系研究科長・医学部長(分子病理学教授) 宮園 浩平 先生)
【目的】

 現在、基礎医学系研究室で働いている医学部出身者(以下「研究医」)は長期的に減少傾向にある。原因は、学生の安定志向や、初期研修の義務化など諸説あるが、このままでは研究・教育の場において、医学的な視点を持って研究を行える人材が枯渇してしまう恐れがある。この問題を解決するには、これまで各研究室や個人の努力で行われてきた基礎医学研究者の育成を制度化し、組織だって行う必要がある。東京大学・医学部では、平成14年からPhD-MDコースを、平成20年度からはMD研究者育成プログラムをスタートさせた。

 

 

【PhD-MDコース

  PhD-MDコースは、通常の医学科カリキュラムの途中で博士課程に進学することで、早い時期に研究に集中することが出来る制度である。従って、大学に入ってから最短で8年で博士(PhD)を取得することが可能である。このコースには各学年12名の優秀な学生のみが進学することができる。ただし、多くの級友とは別の道を歩むことになること、博士号取得後に医師となるには医学科に戻り4学年以上下の学年に合流することになるため、進学にはそれなりの覚悟が必要となる。それでも、これまでの10年間に合計11名が進学し、6名が既に博士号を取得している。さらに、その中の2人は基礎医学の研究室で助教として活躍している。

 

【MD研究者育成プログラム

  MD研究者育成プログラムの特徴は、PhD-MDコースよりも裾野を広げて、通常の医学科カリキュラムと平行する形で研究を行う事である。大きく分けて、基礎系の研究室に所属しての研究活動と、履修生が集まって行う少人数の特別カリキュラムの二つを柱にしている。活動授業の終わった夕方以降や、フリークオーター期間、休みの日などを利用して、自分の手を動かして基礎医学研究に携わると同時に、履修生の間のネットワークの形成を目標としている。

 

 

 少人数の特別カリキュラムは、学生が三年生になって医学科に進学してから開始される。ガイダンスをうけ、希望する者(最初は20名程度であることが多い)は基礎医学ゼミナールに参加して英文論文を読み発表することで「研究コミュニケーション能力」を開発する。カリキュラムが自分の思っているものと合致している人が残り、学年にもよるが10~15名が履修生として在籍することになる。その後卒業するまで、英語ゼミ、リトリート、学会への参加、短期の海外留学などのトレーニングを受ける。

 もう一つの柱である研究活動はフリークオーター期間などを利用して、基礎医学の研究室を一つ選び、そこに所属することで実験技術を学び、論文に書いてあることを自分の体で体験することになる。比較的時間に余裕のある三,四年生の時期に集中して実験をする学生が多い。五、六年生になると、病院実習など医学科カリキュラムの負担が大きくなるが、学生は研究室において実験を続け結果を英文の修了論文をまとめることを目標としている。

 平成23年度は初めての修了生を輩出することになるが、期待以上に大きな成果が上がっている。10名程度の履修生の内、5名が英文の修了論文を提出した。医学修士とほぼ同じ基準で審査が行われ、全員が合格となった。そのうち博士課程に進学を希望する3名に対しては、すでに十分なトレーニングを受けていると認定されて、筆記試験は免除となった。すぐに博士課程に進学せず、臨床研修を受ける学生も基礎研究の重要性を学び取っており、患者さんを見ることで重要な問題を見つけ、医学的な視点を持って研究に戻ってくることを期待している。

【他大学との連携】

  上記のPhD-MDコースやMD研究者育成プログラム履修生の間のネットワークを広げるために、第二回関東四大学リトリート(千葉、群馬、東京、山梨)と第一回全国四大学リトリート(東京、名古屋、京都、大阪)とのリトリートが、夏休みを利用してそれぞれ二日間の日程で行われた。とくに全国四大学リトリートは、教員16名学生59名が参加し学生が主体となって企画運営された。基礎医学研究者を目指す同世代の学生が、ポスターによる研究活動の発表や意見交換を通じてお互いをよく知り、友好的なネットワークを構築することができた。教員も、ファカルティディベロップメントを通して、各大学で行われている研究医を増やす取り組みについての情報交換が行われた。

 
【今後の課題】

  PhD-MDコース、MD研究者育成プログラムともに一定の成果が出始めている段階にある。学年を超えた基礎医学を志す学生達のネットワークも形成され、教員が指示しなくとも自発的な勉強会なども始まっているようである。今後は、このコースの卒業生が科学的に素晴らしい成果をあげて、独立の研究者になるなど学生の身近な目標となる事が望ましいだろう。また、大学間で同様のコースの良い点、悪い点などの情報交換を行い、より良い制度へ進化させていくことも必要だと考えられる。

MD研究者育成プログラムHP:http://www.ut-mdres.umin.jp/
PhD-MDコース:http://square.umin.ac.jp/UTPhDMD/